ポリゴンの骨モデルでのシュミレーションを行うことで様々なトップアスリートの身体の秘密に迫るシリーズ、『100年に一度の天才バレリーナ』シルヴィ・ギエムの二回目です。
一回目はこちら。
前回の考察では、『股関節のみでは180度開脚は不可能』ということが分かりました。股関節は思った以上に可動域の狭い関節なので、見かけ上の股関節の可動域の大半は体幹の代償動作で起こっています。
そのこと関してはバレエやダンスなどをやっている方であればご存知の方も多いかもしれません。ですがあまり体のことを知らない方だと無茶な柔軟体操で股関節を傷めてしまうことが多いので注意が必要です。
180度開脚するシックスオクロックのポーズは股関節の運動だけでは不可能です。では、どうすれば180度開脚が可能になるでしょうか。
一口に180度開脚と言っても、まっすぐに開脚するのと横向きに開脚するのでは実は真逆の動きをしていたりと複雑なのですが、共通するのは体幹をしっかり動かす必要があるということです。
体幹の側屈
ギエムの体幹は一見まっすぐに見えますが、実はとても大きく側屈しています。
体幹が横に曲がっているのですが、上下のバランスが良いので全体的にはまっすぐなように見えます。これを可能にするのが胸椎の回旋です。普通の人の胸椎はとても硬く、ほとんど動きません。ギエムは胸椎の回旋ができているため普通より大きく体幹が動きます。(胸椎の『回旋』ではなくて『側屈』ではないか?と思われるかもしれません。あまり知られていないことですが、胸椎は肋骨との関係上、ほとんど側屈しません。それは後日解説したいと思います。)
骨盤の後傾
また、ギエムの骨盤は後傾しています。バレエでは一般に骨盤を強く前傾させることで足を高く持ち上げますが、シックスオクロックでは真逆の戦略を採用しています。
ギエムは骨盤の後傾によって体幹の矢状面(前後)のまっすぐさを演出しています。おそらく、シックスオクロックのポーズは横から見たときにも体幹がまっすぐに見えるはずです。
バレエでは股関節外旋と骨盤前傾を多用します。シックスオクロックは伝統的なバレエの姿勢に骨盤後傾という要素を取り入れたということができるかもしれません。
また、骨盤の後傾をすると下肢が持ち上がりますので、股関節の負担が少なくなります。これもギエムの29年間の現役を支え続けた秘密の一つでしょう。
一見まっすぐのように見えるギエムの体幹は実はかなり大きく側屈しているということが分かりました。次回はこの体幹側屈によって脚はどのような影響を受けているのかを考えていきたいと思います。