進化から理学療法を考える 姿勢発達研究会のブログ

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連載最終回・“関節拘縮だからROMエクササイズをしよう”と思えなくなった理由

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病気や怪我などがきっかけで体が動かなくなってしまう、という現象ははたして「拘縮」や「痙性」だけが原因なのでしょうか?もっと視野を広げて考えることで、これまで「拘縮だから仕方がない」となってしまっていた可動域制限や運動制限も改善するかもしれない、という連載の第三回目です。

 

 

 

 

 

クライアントAさんは、 
小児麻痺 知的・身体的発達障がいをお持ち 
いつも笑顔で明るい30代女性です。

 

動くはずの足部が動かない?

Aさんが靴を履く場面でのこと。
下腿・足部をまるでモノのように掴みあげて組ませ、そしてお人形の頭に帽子を被せるかのうように靴を被せています。
歩行は軽介助レベルのなので、下肢を少しでも動かしてよいはず、、、
しかし、この場面では全く動く気配がないのです。

そこで、床に靴を置いて、靴が動いてしまわないようにサポートしながら、足を靴に入れてもらうこということを行なってみようと、
「お手伝いするから、足を靴に入れてみて」
私は、Aさんにそうお願いしました。

どのようなことが起こったでしょうか?
私には全く想像できなかったリアクションでした。

Aさんは右足を靴に入れようと、右下肢を動作させました。下肢は自らスムーズに持ち上がり、靴の入り口につま先が入りました。

が、それからが問題でした。
つま先に集中して「よいしょー!よいしょー!」と声を出しながら靴先に足を進めようとしますが、ただただつま先を靴底の踵部分に押し付けるだけで全く進みません。
MP関節は背屈位、足関節は底屈位で固定し、靴のカタチに足部を変化させられず、膝を使って下腿から下の部分を押し付けているようにみえました。

 

拘縮ではなく、別の問題が潜んでいるのでは…


ここで仮説として考えたのは、Aさんにとって、
“下腿と足部は、ひとつの塊”であり、
“動作するときは底屈で固めるもの”
というスキーマなのではないか、ということでした。

Aさんの足には触れず、靴の角度をサポートするという方法を徹底しつつ、なんとか前足部が靴の内部へ入りましたが、それからも本人の一生懸命とは裏腹に固定された足部・足関節で、靴を履くには時間がかかりました。
それでも、固定した足部・足関節はほんのわずかずつ緩み、靴を履いたころには足関節のひどい底屈は緩み、座位ですので足底面はいつものように床についていました。

私たちが靴に足を入れるとき、足趾をモジモジさせたり、足の甲の部分をよじったりして、靴に足を通し、適切な場所に落ち着かせます。
Aさんは、30数年間、足部・足関節を“固めること”で“一生懸命動作”をしてきました。つまり、“緩めて動作する”という方法を持ち合わせていないのでないか、というのが、そのとき確信をもって感じたことでした。
座位にて、足を動かそうとしていないときは、足底面が接地できるのが何より物語っています。


 この日から、Aさんの日常支援が少しだけ変わりました。
Aさんの靴の脱ぎ履き動作のADLレベル 自立 → 介助 に変更する こと。
施設に来たときと帰るときの2回、外履きと内履きに履き替えるときだけ行います。
 方法は、簡単。
前述のように、スタッフは床に置いた靴を少しサポートし、Aさんは自ら足を靴に入れる、というもの。
これだけといればこれだけですが、なかなか足が靴に入っていかないので、靴をわずかに操作させるスタッフの適切な介助と、ご本人の根気が必要です。
がんばりやさんで人懐っこいAさんにとっては、しっかり取り組んでもらえる日課になりました。

 2か月後、私は目を疑いました。歩行時の足首が緩んできている!!??
赤ちゃんのようなハイガードですが、介助量は近位監視レベル、スタッフの肩にもたれたとしても、かかる重さはだいぶ軽くなっていました。

 さらに2か月後
モデル歩き と言いながら、両手を腰に当ててお尻を振りながら歩いています!
この頃には、空き缶洗いのお仕事では、シンクに上体を大きくもたれるようなことはなく、ご自身の両下肢で支持できるようになっていました。

 その後もAさんの変化はとどまるとことを知らず、
空き缶洗い時の立位保持では、踵が設置できるようになり、
そして、1年経った今、踵をついて歩けるようになりました。

 まだ前方重心(前足部に過重)ですし、全身のバランスの課題は残っていますが、この1年の大きな変化はほんとうに感動的で、Aさんが私に教えてくれたものはほんとうに大きいものでした。

 

関節が固い=関節拘縮 ではないという発見


 “関節が固い”という現象に出会ったとき、私たちセラピストがその現象を“関節拘縮”と判断し、“関節可動域訓練をする”ことは、何ら不思議なことはありません。
教科書にそう書いてありますし、そう習ってきましたから。
しかし、“関節が固い”という現象すべてのケースが、“関節拘縮とは限らない”のではないか、これがAさんが私に教えてくれたことでした。

“関節が固い=動かない”には、何か原因があります。その原因が、関節拘縮という軟部組織の器質的病変ではなく、本人の脳が起こしている“動作”だった、、、それが今回のAさんのケースなのだと思います。

 Aさんの足関節の場合、長い年月の“学習”によって身体に染み付いたものですから、“緩めることを知らない”のは、Aさんの”脳“です。
言葉で「緩めてね」といって伝わるものではありません。
 
 “固めること”しか方法を知らない足関節に、可動域を広げようと無理矢理関節可動域訓練をしたところで、足関節の気持ちはきっとこうです。
 「そんなことやめて! 固めないといけないの! もっと固めてどうにか守らなくっちゃ!!」
まさに脳からの“抵抗”です。
無意識でありながら、本人なりの理由があるから“抵抗する”、そう解釈すべきです。
その理由・原因にアプローチすることが必要です。

 Aさんが乳児期・幼少期をどのように過ごしたかはわからないですが、恐らくは正常発達といわれる発達に必要な経験をしてこなかった、経験することができなかったかもしれません。
つまり、“学習”が要因のひとつであっとすると、今回は靴の脱ぎ履き動作を通して、“緩めて使うといいことあるよ”という運動学習をしてもらう、という方法がご本人に受け入れられたのだと思います。

 Aさんの課題はまだまだあります。
 次は、手提げ袋をリズミカル振りながら歩くこと。
 これからもAさんは変わり続けます。

 

 

 

“関節拘縮だからROMエクササイズをしよう”と思えなくなった理由 の連載はこれで終わりです。

 

関節拘縮と思ってしまうと改善の方法が見えない場合でも、ボディスキーマ、ローカル重心、など、「脳が体をどう捉えているのだろうか?」という視点で考えることで改善することが多くあります。

普段私たちの脳は無意識のうちに勝手に作動してくれているため、脳がどのようなインプットを捉え、どう判断し、何をインプットしているのか、を自覚するのははじめは難しいかもしれません。

関節を動かす→筋肉の収縮作用→動かないのは軟部組織の問題、あるいは中枢由来の異常筋緊張

という単純な図式の前に、まずは自分自身の体で「今脳が何を捉え、どう反応しているだろう」を考えていくといいかもしれません。

 

当ブログでは今後、なかなか自覚しにくいボディスキーマについて書いていきたいと考えています。

 

 

 

 

 

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