リハビリでは可動域の改善を目的として、モビライゼーション(モビリゼーション)やマニュピレーションといった手技を行う場合も多いと思います。
関節モビライゼーションや関節マニュピレーションなどを学ぶとき、正確な触診や関節内運動の理解、関節の状態の評価、必要な振幅などの「どうやって触るか」に注目することが多いですが、「なぜ触るか」「そもそもどういう動きが正しいか」を考えずにむやみに可動の増大を行うと関節の破壊につながりますので注意が必要です。
実際、長くリハビリに通っている患者さんの関節が過剰にゆるくなり姿勢維持に多大な筋力が必要になってしまっているケースがときどき見られます。
関節の「遊び」と「可動域」の違い
関節は基本的には、レールの上を走る電車のように一種類の動きしかしません。これが関節の「可動域」です。
参考過去記事
ですが完全にレールの上しか動かせないのであればほんの少しの外力が加わるだけで脱臼や骨折をしてしまいます。そもため、ある程度はレールを外れても問題ないような構造になっています。
ですので、関節の遊びの部分というのは「これ以上レールを外れると怪我をする」という黄色信号です。遊びの部分があるからレールを外れて異常な動きをしても大丈夫、ではなくて、レールを外れると大怪我するから遊びの部分がある、つまり、できればレールを1mmも外れてほしくないというのが骨格の本音です。
この「可動域」と「遊び」の部分を混同してしまい、可動域を改善するつもりで異常な遊びを引き出してしまうとおおきな怪我に繋がります。
関節モビライゼーションのやりすぎに注意
関節モビライゼーションは、怖いくらい効果の高い手技です。
どんなに拘縮があっても廃用があっても、上手な人が時間をかけてモビライゼーションを行えば関節はある程度動くようになり一見「治った」ように見えてしまいます。
ですが、むやみに靭帯や関節包などの組織をひきのばしてしまうことで関節がゆるくなると骨支持力が低下し姿勢維持に無駄な筋力が必要になります。また、自由度が高くなってしまうことで何が正しい動きか分からなくなり可動域を外れた異常な動きをしてしまい怪我につながります。体の柔らかいバレリーナほど無茶な動きをして怪我をするというのが代表的な例です。身近な例としては、足ツボをやりすぎると偏平足や外反母趾になります。
危険な例としては、肩に非常に負荷のかかる生活をしている脊髄損傷患者の肩関節をモビライゼーションしていまったことで靭帯損傷や脱臼を招くケースなどがあります。この場合は患者様の今後の人生におけるQOLの大損失に繋がってしまいます。
安全な関節モビライゼーションのために
遊びの部分はかなり少ないことを理解する。
他動で関節内運動を促すと、かなりの遊びの部分をつくることが可能です。ですが、正常な関節では本来、遊びの部分は大きくても数ミリ、少ないと1ミリの10分の1程度です。モビライゼーションではとにかく振幅を小さく、が鉄則です。
関節がどのように動くか、を理解する
自由度が高いと言われることのある肩関節や股関節も含め、全ての関節は基本的には自由度ゼロです。レールの上を走る電車のように、一種類の動きしかしない、という内骨格生物の基本をまず理解してください。
↓なんども登場させている動画で少々くどいですが、たとえば股関節はこのような円を書くような動きしかできません。
自由度ではなく、可動域を変える
一つ一つの関節の特性と正常な運動方向を立体的に理解し、むやみに自由度を上げるのではなく正常な運動を促すという考え方をしてほしいと思います。
具体的にどうすればいいか
1 一つ一つの関節の正常な動きを理解する
関節の立体的な運動については、いまだに平面でしか人体を考えていない旧態依然の教科書には載っていないため戸惑うかもしれませんが、一つ一つといっても類型化すれば3種類だけなのでさほど難しくはありません。
2 正常な動きを日常の動作にどのように応用しているか?を評価できるようになる
これは動作分析の分野になります。
動作分析が苦手という理学療法士が多い理由の一つとして、動作分析の手法が確立されていないということがあります。いろいろな考え方がありどれが適切が分からなくなってしまうのです。ですが、正常な関節運動という観点から動作分析を行えばどのようなケースでも首尾一貫した見落としのない分析が行えますので非常にシンプルになります。たとえば、歩行であれば全部で6つのポイントを評価すればどんな方の歩行も把握できます。
3 関節に無理の無い動作を促す
ステップ1と2でしっかりした評価ができてしまえば治療は単純に「無理の無い合理的な動きを促通する」というそれだけになります。
まとめ
今回は全体的な理学療法の評価と治療の考え方という大きなテーマになってしまいました。この記事だけでは抽象的すぎて分かりにくいかもしれませんが、講習会では具体的な評価方法と治療について行っていますので分かりやすいと思います。
ブログのほうでも今後より臨床で遣いやすい具体的な手技を書いていきたいと思います。