今回は、感覚麻痺が運動に及ぼす影響について、体感して治療に活かしていく方法をひとつご紹介します。
また、今回の記事では主に末梢の感覚麻痺について考えていますが、これはCVAやパーキンソンなどの中枢系の麻痺を考える上でも重要な考え方になります。中枢系の考え方はこちらにまとめました。
感覚麻痺が運動に及ぼす影響
作業療法士や言語聴覚士であれば感覚を重視する場面もあるでしょうが、運動機能に注目する理学療法士の場合、感覚麻痺=凸凹が分からなくて困る、くらいの認識の方も多いのではないでしょうか。
実はほんの少し感覚が麻痺しただけでも歩行や巧緻動作に大きな影響があります。
運動療法をしても治らない、筋力や可動域には問題ないはずなのになぜかできない、などの原因の一つとして感覚麻痺による運動機能障害があります。
今回は麻痺などのない健康な人でも理解しやすいよう、レベルの高い巧緻動作を例に挙げます。
1事前評価
箸を使って小さな米粒を皿から皿に移してみてください。麻痺などがなければ大概の方はできる動作だと思います。
2麻痺を擬似的に再現
次にセロハンテープを小指に巻きつけてください。
これで小指の皮膚感覚が軽度麻痺した状態を擬似的に再現したことになります。
3予測
箸を使う動作に関係ない小指の先、しかも触覚が鈍くなっただけ、というほんの些細な麻痺体験です。
感覚麻痺=でこぼこが分からなくて困る
というだけであれば、前出の巧緻動作には全く問題なく行えるはずです。
4再評価
もう一度先ほどの箸で米を移動させる動作を行ってみてください。
おそらく、思った以上にやりにくくなっているはずです。肩や腕に無駄な力が入ってしまい知らず知らずのうちに共同運動パターンに近い動作になっていたのではないでしょうか。
5治療
小指にセロハンテープを貼ったまま、つまり、感覚麻痺の回復が望めない状態でも運動能力を向上させなければいけない場面は多々あります。そのような場合に使える治療法について簡単にご紹介します。
ここでは一番単純な治療法を試してみます。
この方法を行うと、小指にセロハンテープを貼ったままでも巧緻動作がしやすくなっているはずです。
これは感覚入力を増やすことで感覚の異常を中枢系で補正することができるようになるからです。
5まとめ
ほんの少しの感覚麻痺でも、このように動作に大きな影響が出るため、リハビリを行う際には感覚麻痺の有無を知ることが重要になります。また、感覚麻痺を治療せずに運動を行うと能率が悪く異常パターンを強化してしまうため、運動リハの前に感覚へのアプローチが必須です。
運動能力の向上について考えていると身としてしまいがちな感覚麻痺ですが、リハビリはまず感覚へのアプローチをしないと何も始まらないというくらい重要です。
運動へのアプローチだけではうまくいかない場合には感覚のことを思い出してほしいと思います。
2018年1月に体感の無料セミナーを開催します
3月のCVAセミナーではこのような体験を多く盛り込んでいく予定です