進化から理学療法を考える 姿勢発達研究会のブログ

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進化からリハビリを考える2:セキツイ動物としてのヒト運動戦略

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以前の記事で、リハビリ医学では「病気をどう治すか」というボトムアップに注目するあまり「正しい運動パターンとは何か」というトップダウンの視点がまだ未発達ですが、生物学や物理学的に正しい運動パターンを把握しているかどうかは病気や疾患の個別対応や手技と同じくらい重要です。ということを書きました。

 

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 そして、正しい運動パターンというのをきちんと定義するためには医学ではこれまで注目されてこなかった生物学や考古学といった視点から考える必要があるということで、前回の記事では原生生物が外骨格により移動能力を獲得するまでをおさらいしました。

 

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膝関節症や脳卒中など、リハビリテーション理学療法の手技についての内容のはずなのにゾウリムシやアノマロカリスのことしか書いていませんが、身体リハビリの根幹をなす重要な考え方です。

今回はセキツイ動物はどのような運動戦略をとったのかということを書きます。

進化の流れに沿ってお話するのであれば、脊索や筋節などセキツイの特殊性から話すべきなのですが、それだとイメージがつかないと思うのでセラピストにとって馴染み深い骨格筋の話からしていきます。 

 

 

外骨格を手に入れた昆虫は高い運動能力というメリットとひきかえに、怪我しやすい身体と短い寿命というデメリットを得ました。

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基本的に、寿命と移動能力は反比例の関係になります。

ですが生物は寿命と移動能力の両方を手に入れる方法を見つけました。それが内骨格とセキツイです。セキツイ動物であるヒトは100年近い寿命と、歩いて大陸を横断できるほどの移動能力を併せ持っています。

ヒトの特性は高い知能であると言われますが、生物全体を俯瞰したときヒトの特性は知能よりもまず長い寿命と高い移動能力であると言えます。

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いったいどのようにして寿命と移動能力を手に入れたのでしょうか。

各関節の靭帯や筋などの強度を上げ、簡単には壊れないようにしたのでしょうか?

炭素化合物の集合体である生物が扱える物質には限りがあります。昆虫よりは多少丈夫とはいえヒトの骨格や関節はチタンやプラチナほどの強度を持っているわけではありませんしネジ止めしてあるわけでもありません。

つまり、ヒトの関節も昆虫とだいたい同じくらい破損しやすいと言えます。

カニを食べるときをイメージしてみてください。外骨格生物であるカニは簡単に手足をもぐことができます。ですが例えばイヌやネコの手足をもごうと思ったら相当大変だと思います(やったことはないですが。)同じくらいの強度であるはずなのに、なぜない骨格生物の関節はこれほど丈夫なのでしょうか。

 

 内骨格生物は内骨格化、つまり、骨格系を内側にして周りを大きな筋で覆うという戦略によって、もろい関節を壊れないように使うことで丈夫さを手に入れました。

イメージとしてはこんな感じです。

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外骨格生物は外力を一点で受け止めるため、関節に強い力がかかり壊れやすくなります。内骨格生物では外力が発生すると多関節筋の張力により自然に外力が全身に分散されます。これは単なる張力による物理現象なので、中枢の姿勢制御などは無関係です。

予測的姿勢制御は中枢の問題と考えられていますが、中枢は一部の筋の張力をコントロールしているだけであると考えると難解に思える中枢疾患へのリハビリに一本筋が通った理解ができます。

 

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 関節運動も同様です。

外骨格生物では膝を曲げるときに膝だけが動きます。そのため膝に負荷がかかり壊れやすくなります。

内骨格生物では膝だけ、股関節だけ、といった単関節運動は存在しません。このことは従来の学校教育では全く教えないためまるで旧来ROMのように「膝関節屈曲」などの単関節運動が存在するような錯覚をしてしまいがちです。ですが運動学の教科書をよく読むと全く真逆のことが書いてあります。ROMを教えることにより単関節運動が起こっているという重大な誤解をしてしまうことはリハビリ教育カリキュラムの大きな過失だと私は考えています。

 

 

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話が逸れてしまいましたが、内骨格生物であるヒトは膝だけ曲がるという運動はありえません。必ず全身が共同して動きます。これは近年では予測的姿勢制御と呼ばれることも多いようです。たしかに中枢の関与もありますが、単純な張力による現象なので中枢とは無関係に発生します。

 

この、多関節筋の張力による物理的な運動連鎖こそが内骨格生物の特徴であり、ヒトはこの運動連鎖をコントロールする技術が高いため二足歩行や巧緻動作を行えるようになった、と考えるとヒトはどのように動くべきかが見えてきます。

 

生物40億年の歴史を駆け足で俯瞰するという遠大なテーマでしたが、ここをしっかり理解しておくとリハビリ手技に一本筋が通ります。

 

 

次回は具体的なヒトの運動様式について書きたいと思います。

 

 

 

 

 

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