進化から理学療法を考える 姿勢発達研究会のブログ

問い合わせ・講習会申し込みはこちら http://sinka-body.net/

問い合わせ・講習会申し込みは sinka-body.net  まで

“関節拘縮だからROMエクササイズをしよう”と思えなくなった理由

3Dリハビリテーションの最新情報をお届けします

今回の記事は中枢系疾患に詳しい伊藤先生の寄稿です。

関節拘縮は治らない?

「何年も動かしていないから、関節拘縮になっているのは仕方ない」
「関節拘縮を悪化させないように、早いうちからしっかりと、関節可動域運動(ROMエクササイズ)をしなければいけない」
リハビリの臨床現場ではよくよく聞かれることなのではないでしょうか。

私もみなさん同様、諸先輩方が言うそのような内容に反論する確証もなく、
「そんなのもなのかな、、、」と思いつつ、
理学療法士としてやもやした気持ちで過ごしていました、、、
とあるクライアントAさんに出会うまでは、、、。



クライアントAさんは、 
小児麻痺 知的・身体的発達障がいをお持ちの
いつも笑顔で明るい30代女性です。

Aさんと出会ったのは、障がい者のための就労支援B型・生活介護施設。いわば、障がいをお持ちの方のためのお仕事の場とデイサービスとが一緒になったような施設です。
ここでの私の仕事内容は、月に2回、個別リハビリを4時間で14人行う、というものでした。

初対面での会話
私:どこか痛いところはありますか?
Aさん  :あのね、腰が痛いの。(x.x)
施設看護師:あ、この人、腰が痛い腰が痛いといつも言っているので、気にせずにリハビリやってください(^^)

 施設の看護師さん(以下Ns)によると、午後の活動(レクリエーション)の時間などにしばしば「腰が痛い!」という訴えがあるのだそう。
訴えが多いので、「注意獲得のためのわがまま」と判断されているようでした。
あまりのその訴えが強過ぎてスタッフが対応できない状態になるとさらに感情が高ぶり、ときには“かみつき”行為になることも起こるような状態でした。
Nsが腰痛の訴えを「気にしないでください」と言ったのにはこのような背景があったからでした。

 Aさんは施設内では車イスこそは使いませんが、歩行は、中等度介助レベル。
介助者は片腕をサポートするか、Aさんに肩をしっかりつかまってもらう必要がありました。腰を深く反らせて引き上げ、両足ともにつま先立ちで踵が床に着くことはなく、股関節の内旋が強いため左右の膝はほとんどくっついたような状態。
両肩を思いっきり引き上げて、肘をしっかり曲げ、手は肩より上の位置にして、一生懸命バランスをとりつつも、何か(スタッフの肩)に頼ってなんとか歩くという状況でした。
 
 Aさんのお仕事は、空き缶洗い。シンクにお腹を押し付け、前方に上体を倒れこませるようにしながら、辛うじてつま先が床についているような姿勢になってしまうので、体幹を一層強く反らせて作業をしていました。
一度始めると集中して1時間くらいは立ちっぱなし。
作業そのものは1日1~1時間半程度とはいうものの、彼女にとっては大変な労働です。

 確かに、Aさんの強い訴えには注意獲得的な要因も含まれていたのだとは思います。
しかし、あれだけ腰を引き上げていれば誰でも腰が痛くなるのは必至で、とくに午前中の立ちっぱなしの仕事の後となれば、「腰が痛い!」と訴えたくなるのも当然なのかもしれません。
それが、スタッフさんにかまって欲しいという気持ちと重なればなおのこと、彼女は痛みをより強く感じてしまっていたかもしれない、と想像できます。
一方、スタッフさんの立場を考えれば、日常的な腰痛の訴えにどう対処することもできず、時には感情的になってしまうAさんに手をこまねいていたようでした。

 さて、リハビリとしては、
  ① 腰痛の緩和
  ② 立位の安定性向上(空き缶洗い作業の身体の負担を減らす)
  ② 歩行安定性の向上
 この3つが、目下の目標になりました
介入するにあたり良かったのは、Aさんはとても人懐っこく、ボディタッチされることに全く抵抗を示さなかったこと、そして、言語指示を一生懸命実行してくれようというリハビリに対する積極的な気持ちがあったことでした。

 一方で、ボディースキーマに決定的な弱さがありました。
例えば、プラットホームに「上向きに寝ましょう」と指示すると、枕の上にちゃんと頭をのせることができず、必ず、プラットホームに対して身体が斜めになったり、うえ過ぎたり、下過ぎたり、、、
「壁の方を向いて横向きになってみて」という指示に対しては、片方脚を横に投げ出して、頭を枕から外して「こう?」と一生懸命こちらのリクエストに応えようとしてくれていました。

 そして、今回のテーマになる足関節ですが、
背臥位になると脱力するのでほんのわずかに可動域があり、底屈位ながらも恐らくは2~3°は受動的には動きました。
とはいえ、それ以上動かそうとしても全く動くとする気配はありませんでした。
下肢全体をみると、股関節は内旋で固定し足部の動きはとても少ない、典型的な小児麻痺の特徴です。
 
 課題①腰痛の緩和 については、
月2回介入を進めるにつれて、3カ月程度で訴えはそれほど強くなくなり、半年経ったころから「痛くなくなったの!」と言ってくれるようになりました。3年経った今でもたまに訴えはありますが、数カ月に1度程度で、スタッフさんを困らせるようなことは無くなりました。

 腰痛が緩和してくると、腰部の引き上げがわずかながらも和らぎ、バランスがとりやすくなったといってよいでしょう、歩行時の介助量は明らかに軽減していきました。
Aさんがスタッフの肩にもたれる重さが軽くなり、軽介助レベルといってもよいくらいにはなりました。笑顔が増えて、かみつきもなくなりました。

 課題② 立位姿勢の安定性向上については、
シンクと腹部の間にロールタオルを挟むことで、だいぶ安定した状態で、作業ができるようになっていました。

足関節が拘縮しているから、歩行が困難なのは仕方がない??

課題③については、、、
 当然ですが、踵は地面から浮いたまま、つま先立ちで歩いていることに対して、「仕方がいない」と思っていました。
足関節にいわゆるROMエクササイズをしようとしても、むしろ抵抗するように固く、改善するようにはとても思えなかったため、行いませんした。
足関節は底屈位で関節拘縮しているから、仕方がないのかも、、、と思っていました。
なぜならAさんの30数年とううながい歴史の中で、“関節拘縮”してきたのですから、、、。
 それでも、腰背部の過剰な力がわずかならも緩んでくると、立位や歩行が少しずつ安定しているという変化に目を向けてリハビリを行っていました。

 そして、ある日、あるとき、“足関節の拘縮”ではなかった、ということをAさんは私に示してくれました…

 

 

 

 

つづきます。
臨床では、拘縮は治らない、仕方がない、というのは必ずしもすべての疾患に当てはまるものではなく、拘縮だからと思ってしまっている部分に意外な原因が隠れていることが多くあります。
Aさんはどのような原因で歩行が困難になっていたのでしょうか?
次回は、長年の麻痺や拘縮でも「ある要因」を考えることで解決する場合がある、という具体例を書いていただく予定です。

/* gifに開始ボタン */

参加受付中講習会一覧はこちら

/* gifに開始ボタンここまで */