新人セラピストさんであれば、患者さんの硬くなってしまった手足を見て途方にくれてしまった経験があるかもしれません。
「リハビリの国家資格所有者なのに、拘縮の治し方を知らない??」
と思う方もいるかもしれませんが、リハビリの学校では拘縮の原因や組織の変性については教えてくれますが、具体的な拘縮リハをしっかり教えてくれる場所は少なく、学生のうちに拘縮を治す経験を積ませてくれる学校は皆無です。随分改善されたとはいえ、リハビリのカリキュラムは知識偏重の傾向があるので、よりよいリハビリ目指して改善していきたいところですね。
というわけで、
拘縮って何?どうやって治せばいいの?
という疑問について理論だけでなく臨床で使える考え方と手技を書いていきます。
3D拘縮リハの適応と禁忌
これに関しては長くなってしまったので別にまとめました。
簡単にまとめると、3Dリハビリは軽い運動でも危険なほどの重篤な状態以外であれば疾患や障害部位を問わず使えます。
では、まずは筋の性質から解説してゆきます。
おさらい:筋の性質
筋肉は一定方向に規則正しく繊維が並んでいます。
筋繊維の方向は筋の起始停止が規定します。
つまり、起始停止が近づくor遠ざかる方向の運動には強いのですが、それ以外の方向に動くようには想定されていないデザインです。
- 筋は起始停止が近づく方向に収縮する
- 起始停止が遠ざかる方向の伸張は安全に行える
- 一つの筋の中で起始停止が近づく運動(収縮)と遠ざかる運動(伸張)が同時に起こると筋繊維は破壊されやすい
このような筋生理学的現象を、実際のヒト運動学に適応したのが3D運動学です。
つまり、
- もっとも安全な運動は、筋の起始停止が近づくor遠ざかる方向の運動である
- 拘縮や変形、痛みの原因は、筋の起始停止方向に動いていないことである
という考え方です。
起始停止の3D構造から考える正しい関節ROM訓練
具体例として、大殿筋を考えてみましょう。
大殿筋は伸筋、だが場合によっては屈筋、歩行時には主に遠心性に作用するなど、なんのためにあるのか捉えにくい筋の代表例です。ですが、『筋の求心性作用は、起始部と停止部を近づける作用をするために存在する』と考えてみるとシンプルに理解できます。
【大殿筋の起始・停止】
(起始)
後殿筋線の後方、仙骨・尾骨の外側縁、胸腰筋膜、仙結節靭帯らに付着。
(停止)
浅層は、大腿筋膜の外側部で腸脛靭帯に移る。
深層は、大腿骨の臀部粗面に付着。
大殿筋は大腿後方の筋ではない
後面からみた大殿筋です。今回は単純化のため、大殿筋長頭のみを考察しています。
ほとんどの教科書にはこのような後面からみた図が載っているため、大殿筋は大腿後方の筋であるという誤解をしている方がよくいます。
ですが、大殿筋のは大腿筋膜張筋につながり、脛骨外側前面に付着します。
つまり、ヒトにおける大殿筋は90度ねじれた形になっています。
このような筋の起始停止がもっとも近づく肢位、つまり大殿筋が最も収縮する肢位は
股関節屈曲90度、外転90度、外旋90度
です。
逆に最も伸張する肢位は
股関節伸展10度、内旋90度、外転10度と考えられます。
この肢位の算出方法としては、xyzそれぞれの平面で以下の証明を利用しました。
(簡単な証明ですが、臨床にはあまり関係ないので、興味のある方だけ読んでください)
つまり、大殿筋の正しい作用は
股関節屈曲90度、外転90度、外旋90度の肢位から、股関節伸展10度、内旋90度、外転10度の肢位までxyz全ての座標において等分に移動することです。
画像をクリックすると動画ははじまります。
つまり、大殿筋の筋力低下、筋短縮、アライメント異常においてはこのような↑運動を徒手で行うことが治療になります。
また、今回は大殿筋のみ解析しましたがハムストリングスや四頭筋など全ての筋で上記と同様の『屈曲外転外旋』と『伸展外旋内旋』パターンとなります。
そしてさらに、上記の運動の関節部を拡大してみると、骨が脱臼しない正しい3D骨運動となっていることがわかります。
クリックすると動画がはじまります。
上記大殿筋運動と全く同様の運動の股関節部分拡大図です。
つまり、今回の手技は大殿筋の治療のみに焦点をあてたにも関わらず、他の筋や骨にとっても効果の高いリハビリが行えます。また、この運動は神経や靭帯なども過度な負荷がかからない安全な運動です。これは生物においては全ての形状は合理的に決定されるというwolfの法則で説明できます。
これが3Dリハビリが『疾患を問わず効果が見込める』理由です。
つまり、
ROMエクササイズ=筋トレ=中枢麻痺改善=末梢神経回復=アライメント修正
と、一つの運動で様々な効果を出すことができます。体は全て繋がっているのだから、あたりまえといえばあたりまえな理論です。
これまでのリハビリでは(というか医学では)筋は筋、骨は骨、神経は神経、と全く別のものとして研究を深めてきました。それはとても意義深いものですが、今後はAIなどで大量のデータを扱うことができるようになったため個別の組織についての研究を俯瞰し、全体像を掴む方向性の研究が進んでゆくだろうと考えています。
まとめ
股関節の拘縮の治し方
- 筋の起始停止を3D的に捉え、3D運動を行う
理論は難しいですが、やることはとてもシンプルです。
正しく行えば、最短時間で最大の効果が見込めます。何十年も治らなかった方など改善しにくい方などにも使ってみてください。
立体構造を把握するのはなれないと難しいかもしれないので、骨標本等でしっかり確認しながら試してみてください。