正しい立位を理解することはリハビリの基本といえます。姿勢矯正だけでなく呼吸理学療法や歩行にも大きく関係する部分です。
↓どの姿勢が『正しい立位』でしょう?
おそらく、体に関する知識が豊富なはずの理学療法士でも、上記三つのうちのどの姿勢が正しいのか明確に根拠を持って答えることができないのには理由があります。
もくじ
「クッション性」は間違い!脊柱のS字カーブが必要な本当の理由
ヒトの脊柱のS字カーブの理由としてよく挙げられるのが、脊柱にかかる衝撃を分散させるクッションの役目、というものです。ですが私の知る限り、具体的にどの程度の湾曲がどのような衝撃をどれくらい分散させているかの計算をした研究はみあたりません。(そのような研究をご存知の方がいらっしゃったら教えてください)
私も計算してみたことがあるのですが、どのような計算をしてもS字カーブは必要なくむしろS字にすることで弱い構造になっているという結果になってしまいました。(予断ですが、静的なS字カーブは弱い構造ですが、S字カーブをとることができる可動性があることは衝撃に強い構造です。「S字カーブは衝撃に強い」というのはおそらく可動性と静的な姿勢を混同した発言であると考えられます。)
脊柱的には『平背』が有利
重力に攻するのであれば↓このような単純にまっすぐな構造のほうが有利です。曲がっているものに力を加えると、さらに曲がる方向に力がかかってしまうからです。
ですので脊柱だけ考えた場合、直立不動の姿勢をとる場合はできるだけS字カーブを無くしたいわゆる『平背』の姿勢が有利になります。
本題:なぜS字カーブが存在するのか
やっと本題です。
抗重力という視点から考えた場合は単純にまっすぐな脊柱のほうが有利ですが、平背には二つの欠点があります。
欠点1:立位は呼吸に不利な姿勢
食物という形のしっかりしたものが詰まっている胃や腸に比べ、肺には空気という形の無いものが入るので、重みに弱い構造です。重力がかかると簡単に潰れてしまい呼吸ができなくなります。そのため肋骨で形をしっかり固定する構造になっています。
ですが、四足動物の時代には重力と肋骨の方向が一致していたのに対し、ヒトの場合は重力と肋骨が垂直に交差してしまい、重力の影響を強く受ける構造です。
ヒトの肺は重力に負けてつぶされてしまい簡単に呼吸困難になってしまいます。
常に上から押さえつけられている肋骨を持ち上げやすくするめには、肋骨の根元である胸椎から動かす必要があります。*1
そして、胸椎を伸展させることにより移動した重心を戻すために骨盤と首が屈曲します。これがS字カーブの理由です。
正しいS字カーブとは
このことにより、
- 基本的には脊柱はまっすぐ(平背)
- かつ、胸椎が軽度伸展
という立位における『正しい』S字が導き出されます。
冒頭の図↓では、真ん中の姿勢が正しい姿勢です
胸椎を伸展させるということだけを考えると図の左端の脊柱が過剰に伸展している姿勢も一見正しそうに見えますが、平背の二つ目の欠点である消化器と重力の関係について考えた場合、真ん中の姿勢が正しいという結論になりますが、長くなりましたのでそのあたりはまた書いていきたいと思います。
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臨床ですぐ使えるテクニックを中心に講習会を開催してきましたが、今後はs字カーブや進化など、手技をより効果的に行うための応用的な講習会も開催していきたいと考えています。また、基本の触診を納得いくまで繰り返せる形式の講座も開催したいです。
ブログのほうもより具体的な手技や今回のような進化の話など、様々な方面で現役PTさんにとって使える記事を増やしたいと考えています
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